欲 辯 已 忘 言 |
此 中 有 眞 意 |
飛 鳥 相 與 還 |
山 氣 日 夕 佳 |
悠 然 見 南 山 |
采 菊 東 籬 下 |
心 遠 地 自 偏 |
問 君 何 能 爾 |
而 無 車 馬 喧 |
結 廬 在 人 境 |
飮 酒 |
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弁 ぜ ん と 欲 し て 已 に 言 を 忘 る |
す で |
此 の 中 に 真 意 有 り |
う ち |
飛 鳥 相 い 与 に 還 る |
と も か え |
山 気 日 夕 佳 な り |
に っ せ き |
悠 然 と し て 南 山 を 見 る |
ゆ う ぜ ん |
菊 を 采 る 東 籬 の 下 |
と と う り も と |
心 遠 く し て 地 自 ら 偏 な れ ば な り |
お の ず か へ ん |
君 に 問 う 何 ぞ 能 爾 る や |
よ し か |
而 れ ど も 車 馬 の 喧 し き 無 し |
し か か ま び す |
廬 を 結 び て 人 境 に 在 り |
い お り じ ん き ょ う |
陶 淵 明 |
<解説> "飲酒"という題であるが、酒を飲む自体ではなく、酒を飲んで、酔い心地の中に浮かんできた物思いを歌った詩。20首の連作の第5首で、最も有名である。 粗末な家を人里に建てたが、訪問してくる馬車の騒がしい響きはしない。君は、どうしてそうなのかわかるかね。心が俗事から遠ざかっていると、住居もおのずと片田舎も同然となるのだよ。 この中に、真理が存在するのだが、それを語ろうとすると、はや、ことばを忘れてしまった。 車馬は馬車、馬車に乗る有力者たち。馬車に乗って訪ねてくる人がいないから、「車馬の喧し」いのが無い。 悠然はゆったりと落ち着いていること、また遠く遙かなこと、悠然としているのは、作者でもあり、山でもある。作者は、見てやろうなどという構えなしに、ゆったりと、はるかに山を眺め、山は、遙かかなたにゆったりそびえる。山と自分とが一体になっているのである。南山は、江西省の廬山とされている。作者の故郷から近い。南山は、詩の中では、人間世界を離れた理想境というニュアンスを持って、用いられることが多い。日夕は夕暮れ。飛鳥は、詩の中では、自由を象徴している。 此の中は、特定のものの中ではなく、作者自身と、作者を取り巻くあらゆるもの、菊や南山や、夕暮れや飛鳥などをひっくるめた、作者と自然とが一体となった中である。 夏目漱石の「草枕」の巻頭に、東洋人の理想の境地を示す詩として引用されているので有名。今日では、戦乱の世に生きた陶淵明の心境は、この詩に歌われるほど単純ではなかったとされたいるが、彼自身で追求した、理想の境地を歌っていることは確かである。 |
筑摩書房「唐詩の世界」(入江仙介著)より引用 |